本間メイ個展「Women were gatherers?:女は採集者だった?」展示レポート
本学卒業生・本間メイさんの個展「Women were gatherers?:女は採集者だった?」に伺い、展示テーマや制作についてのお話を伺いました。
女子美クリエイティブ・ラボラトリー(女子美ラボ)では以前、本間さんが2022年度に<女子美アーティスト・イン・レジデンス>に滞在されていた時と、吉良智子先生(専門: 近代日本美術史・ジェンダー史)との対談の際にインタビューをさせていただきました。
本間さんはこれまで、近世から現代に至るまでのインドネシアと日本の歴史的な関係性を出発点とし、公式な資料やアーカイブに加えて、小説や日用品といった私的なもの、さらに作家自身が現地を訪れて撮影した映像など、多様な視点や手法を交えてリサーチを展開してきました。そこから派生する社会・政治的な課題や、複数の国や地域のあいだに存在する関係性を問い直す映像作品やインスタレーションを制作・発表しています。

今回の展示は、本間さん自身が子育てに関わる日常の中で、子どもの言動に触れた際(例えば男の子のお子さんに剣のおもちゃを持たせると自然と戦い始めるなど)に抱いた疑問をきっかけに女性ハンターという存在に興味を持ったことがきっかけになっています。改めて調べ進めていくと「男性は狩猟、女性は採集」とされてきた従来のイメージとは異なり、実際には女性も狩猟に関わっていたという研究結果が近年の発掘調査で明らかになってきていることを知ったといいます。こうした発見から、歴史の中で語り継がれてきた女性に対する固定的なジェンダーの考え方を問い直すことを今回の作品テーマの軸として設定し、制作を進めました。

今回の展示ではサイアノタイププリント(光の力と鉄塩の化学反応を用いて画像をブルーに定着させる方法)や草木染めといった手法で制作したプリント作品など、アプローチの異なる全14点の作品を発表しました。
女性が槍を投げる姿を撮影したイメージがプリントされた布は草木の色合いに染まり、さらに刺繍で詩が綴られています。また、写真のイメージを紙に転写したガムオイルプリント(ガム液(水彩絵の具などに使われるガムアラビア)と油絵具を組み合わせた印刷方法)の作品や、発掘された狩猟用の石器をドローイングし、同じく草木染めで仕上げた作品も展示されていました。映像作品では、インドネシア語と日本語で綴られた短い詩の朗読が場面に合わせ流れています。

今回の展示では2点の書籍も紹介されていました。1冊目はアーティストやキュレーターとして活動しながら子育てをしている人々へのインタビューをまとめた『Dialogues with Artist Parents: ジェンダーロールとは?』。
2冊目の自身の妊娠の経験やパンデミックを経て制作した『Quiescent Time: Listening to Your Heartbeat 静止している時間: 心拍を聞きながら』では、再構成したバインディングブックを閲覧用に展示しており、コロナ禍で作品を制作するなかで表現手法のひとつとして取り入れる機会が増えた刺繍を、ページの一部に施しています。

バインディングブックの制作中に、奈良女子大学の山崎明子教授に伺った「刺繍や裁縫が今日の女子教育にどのような影響を与えたか」という問いかけから、本間さんの母校である女子美術大学が1900年の創立当初から刺繍科を設け、芸術教育の中核として機能していたという歴史を改めて知ることになりました。今回の書籍では、そうした「刺繍」というものが、「女性の手仕事」としての内職的なものではなく、教育的そして女性の社会的自立の一助としての側面を持っていたことを掘り下げ、再解釈しまとめたものとなっています。

本展で展示された作品群は「ジェンダーロール」という概念そのものがなかった時代背景と、現代の私たちが抱える固定観念との間にあるイメージの隔たりを作品を通し静かに問いかけています。
最後に女子美の在学生に向けてコメントをいただきました。
将来のライフプランや自分の身体と向き合うことについて、学生のうちから意識しておくことが大切だということ。特に、出産・子育てとキャリアとの両立を考える上で、大学生のうちにやりたいことに取り組んでおくと、後々の生活の選択肢が広がり、キャリアプランは一人ひとり異なるものであるからこそ自分自身で主体的に考える必要があるとお話しいただきました。
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個展のショートインタビューは以下のからご覧いただけます
本間メイ(1985年東京都生まれ)2009年に女子美術大学芸術学部を卒業、2011年にチェルシー芸術大学大学院ファインアーツ科を修了しました。2022年度<女子美アーティスト・イン・レジデンス>滞在。 主な個展に「Bodies in Overlooked Pain -見過ごされた痛みにある体-」(黄金町エリアマネジメントセンター、2020年)。主なグループ展に、「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2023年)、「Instrumenta #2 MACHINE/MAGIC」(National Gallery of Indonesia、2019年)、「5th Indonesia Contemporary Ceramic」(Jatiwangi Art Factory、2019年)、「つぎはぎの『言葉』(字ことば kata eweawea)」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2018年)、「Quiet Dialogue:インビジブルな存在と私たち」(東京都美術館、2018年)など。
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展示情報
個展: 「Women were gatherers?:女は採集者だった?」
会期: 2025年3月1日(土)〜2025年3月29日(土)
会場: GALLERY MoMo Projects
本間さんへの過去のインタビュー

筆者: 瀬田 ユミ(女子美術大学研究所 講師)
女子美術大学 芸術学部芸術学科卒業。女子美アートミュージアム(JAM)、アートデザイン表現学科アートプロデュース表現領域助手を経て、2016年より東京・原宿にあるコンテンポラリーアートギャラリーThe Massにてキュレーション及び運営を担当。2024年より現職。卒業時の論文テーマは「アプロプリエイトプロポーション – 神域における削がれた空間」。直島に鎮座する杉本博司氏による護王神社を例に挙げ、ミニマリズム(最小限芸術)の歴史を辿り、作品と空間の関係性を今一度考察し、神域における削がれた空間や思想は今日の芸術作品に一体どのような影響を及ぼしてきたのかを研究しました。
女子美ラボでは、本学学生参加型の展覧会企画やイベント立案に研究知見を応用していくことを目指します。