佐藤和子先生 学位取得記念講演会・懇親会 〜イタリアのアヴァンギャルド・デザインから学ぶもの“ 笑えるデザイン ”〜

イタリアデザインの専門家で女子美術大学客員教授の佐藤和子先生が2019年(平成31年度)に博士号を取得され、2024年10月12日に学位取得記念講演会・懇親会が学士会館で行われました。

撮影:女子美ラボ

佐藤和子先生について

佐藤和子先生は、1957年4月に女子美術大学芸術学部図案科[1]に入学され、1961年に同校を卒業されました。その後、同年4月に、東京藝術大学図案専攻科(現在の東京藝術大学大学院)に入学され、さらに10月には、文部省イタリア政府招聘留学生としてミラノにあるブレラ国立美術学院(Accademia di Belle Arti di Brera)[2]の装飾科に入学し1963年6月まで研修をされました。

佐藤先生は招聘留学生終了後もイタリアで活動されます。1963年にはミラノにあるロドルフォ・ボネット・インダストリアルデザイン事務所(Rodolfo Bonetto)に勤務され、1970年から建築デザイン共同事務所を主宰されました。1980年から2001年には専門誌「ドムス(DOMUS)」編集部に勤務され、デザイン・スタジオ「アルキミア(ALCHIMIA)」メンバーとなり、デザイナーとして、またジャーナリストとして長きにわたりイタリアで活躍されました。また、イタリアの工業デザイン賞「コンパッソ・ドーロ(COMPASSO D’ORO)」を共同受賞(1981年)されています。

1995年にはドムス誌の日本特派員、2000年より株式会社リビングデザインセンターOZONE監修者として2005年まで務められました。

また教育者としては現在、女子美術大学の客員教授、金沢美術工芸大学では名誉客員教授として学生へ指導をされています。

論文について

撮影:女子美ラボ

佐藤先生の博士論文「ポストモダン社会のデザイン : イタリアのアヴァンギャルド・デザインの根底にあるもの」は、戦前の時代から始まり、60年代後半から70年代にかけてのイタリア・アヴァンギャルド運動の軌跡が記述されています。実際にその時代にイタリアのデザインシーンの中にいた佐藤先生だからこそ書けた論文です。非常にリアルな視点で、目まぐるしく変化したアヴァンギャルドデザインの本質に迫りました。

講演会

撮影:女子美ラボ

「イタリアのアヴァンギャルド・デザインから学ぶもの“ 笑えるデザイン ”」と題した本講演では、アヴァンギャルドデザインが残したアイデンティティーが現在のイタリアにどう生かされてきたのか、そして深刻化する戦争や自然破壊が起きているなかで、子どもの未来のために今デザインができることは何かということを先生は問われました。

また講演の最後には、ナポリ出身のデザイナー、リカルド・ダリージ(Riccardo Dalisi)が制作したユニークなナポリタンコーヒー・ポット[3]を片手に佐藤先生は「人生は、笑わなくちゃいけない!楽しまなくちゃいけない!これがこれからの深刻な時代のデザインではないか、デザイナーとしての役割ではないかと思っております。」と、世界が不安定な現代の社会だからこそ、ユーモアや笑いの大切さを訴えました。

撮影:女子美ラボ

おわりに

1961年にイタリア政府招聘留学生としてイタリアへ渡った佐藤先生ですが、当時の日本人にとって海外へ行くことは大変難しいことでした。そもそも観光目的で海外へ行けることになったのは、パスポートの取得が可能となった1964年からで、それまでは現在のように飛行機で海外に行くことは一般化していませんでした。佐藤先生曰くイタリアまでの移動も飛行機ではなく船だったと言います。

そのような時代に、まだ20代前半の若き日本人女性が単身でイタリア留学をするということは、大変勇気のいる挑戦です。イタリア人のコミュニティの中で日本人のデザイナーとして働くということも計り知れないほどの努力があったでしょう。

そんな佐藤先生は今もなおイタリアデザインを最先端で研究し発信し続けています。

筆者は平成29年度(2017)第11回女子美ミラノ賞の受賞により、ブレラ国立美術学院で半年間学んだ経験があります。そんな筆者にとって、本講演会は大変学ぶべきことが多く、自身の今後の研究活動への活力になりました。先生のイタリアデザインへの情熱とその生き方に心打たれ、胸が熱くなりました。

佐藤和子先生は多数の著書があり、その中でも『アルキミア/終りなきイタリアデザイン』(六曜社、1985)と『「時」に生きる イタリア・デザイン』(三田出版会、1995)は、イタリアデザインを知ることができる貴重な本として、長年にわたり多くの読者に愛され続けています。

女子美術大学の図書館には佐藤先生の著書が沢山所蔵されているので、学生の皆さんも是非手に取ってみてくださいね。


[1] 「図案科」とは1949年に設置された学科で、現在のデザイン科にあたります。

[2] ブレラ国立美術学院は1776年に設立されイタリアの中でも長い歴史のある美術学院です。女子美術大学とは2014年から学術協定校となり、協定留学や女子美ミラノ賞の設立によってこれまでも多くの学生が学んできました。

[3] ナポリタンコーヒー・ポットについて詳しく知りたい方は『ナポリタンコーヒー・ポットの風景』(佐藤和子、2013)を是非読んでみてください。

執筆者:田中直子

写真撮影:高橋ゆう

女子美クリエイティブ・ラボラトリー助手。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻博士後期課程修了(2023年度)。女子美術大学アートプロデュース表現領域にて修士と学士。1938年に行われた児童画コンクール「日独伊親善図画」の研究をしながら、展覧会のキュレーションや執筆活動なども行っている。平成29年度(2017)第11回女子美ミラノ賞受賞。