フィレンツェで学んだ、女性の生き方と修復への想い

2023年8月の下旬に、女子美術大学の杉並キャンパスと、相模原キャンパスにて、本学卒業生の
近藤佳子氏によるレクチャーとワークショップが開催されました。

「フィレンツェに生きる」と題されたレクチャーでは近藤氏ご自身の卒業後の歩みをスライドを交えて丁寧に語られ、午後の部では、ヨーロッパ伝統の装飾紙「ペーストペーパー」作りのワークショップを行っていただきました。

午前に行われたスライドレクチャー

近藤氏は、日本画専攻を卒業後、通商産業省で6ヶ月間アルバイトをしながらイタリア語を習い、後にイタリアへ留学し、紙ベースの保存修復の技術を習得しました。通産省のアルバイト時代は、女性がお茶くみやコピー取りなど、男性ばかりの部署で雑務を担う女性としての立場に疑問を感じ、悔しい思いをしました。その経験から女性としての自立と手に職をつける重要性を痛感し、日本では学べない特別な技能をイタリアで学ぶことを決意しました。
フィレンツェを選んだ理由は、1966年の大洪水後に設けられた文化財の修復工房があったからであり、本の修復を選んだのは、物や本を大切にする母の影響と、和紙への親しみからでした。もう一つに父の一言“世の中の役に立つことを選びなさい”という言葉に“それはやはり芸術だ!”と確信して女子美を目指したことで今に繋がりました。

フィレンツェは小規模な環境で人間味あふれて住み易く、また、イタリアの母性的な包容力を「マンマの国」と表現しました。イタリアにもジェンダーの差異はありますが、女性幹部は多く、家庭とキャリアを両立していることから「厳しい父の国」日本との違いがあると語りました。

女子美術大学での教育は、近藤氏のキャリア形成において土台となり、創造的な人生へのスプリングボードの役割を果たしました。女性がモノづくりをする上での連帯感、魂の絆を築く文化は、他の美術大学にはない稀有なものです。また、女子美ならではの卒業生間の強い結びつき、イタリア支部を含む世界的なネットワークが近藤氏のキャリアにも活力を与え続けています。

「人生は短く、芸術は長い」という言葉を胸に、修復の専門家として「過去と未来を繋ぐ」使命感を持ち、長い時間を超えて文化を後世に継承することの意義について力強く語りました。技術の進化とともに、現代の修復家ができる限りのことをすること、次世代にバトンを渡すことの大切さを強調しました。

近藤佳子 氏

最後に、在学生たちへ向けて、世界を見渡す視野の大切さと同時に、日本独自の素晴らしい技術や文化を深く学び、海外に出たときには日本を代表する意識を持つようにとの熱いメッセージを送りました。